専科-1ステップ(3)

専科-1ステップ(3):
ギターのソノリティ(音楽のリアリズム)を創る

ギターの魅力的な音は表面板の震動で創られる

ギターの発音は「弦振動⇒ブリッジを通じてエネルギー伝達⇒表面板の震動」という流れを経て行われます。
いわば、弦振動が「音入力」であり、表面板(ボディ)がスピーカーに匹敵(ひってき)するということなのです。
ですから、最終的には表面板が震動しない限り大きな音になりません。

木(自然)は変化する響きを生む

ギターという楽器は「木」で作られています。その「木を構成する物質」は言うまでもなく木の細胞組織です。
これを側面から断裁(だんさい)して拡大したのが下の図です。


普通、木材を加工するためには「含水率(がんすいりつ)」を11〜13パーセントくらいに下げるのが常識ですが、楽器の場合は更に低くすることによって「素材の安定化」を図ります。
ピアノや量産(メーカーの製品)のギターですと、1〜2年間自然乾燥させて、更に乾燥室に入れ、赤外線などを使い人工乾燥をさせてから加工をします。
それに対し、バイオリンやギター(楽器としての)は少なくとも10年以上の自然乾燥期間を経た木材を使用して製作されます。
そうすることによって、木材の細胞組織は安定した「振動板」となるわけです。
こうした材料で作られた楽器の振動は、大きく考えると非常に安定した音響を生み出します。

しかし、その一方で、表面板全体が震動するわけですから、当然不均一な倍音構成が生じます。
この「コントロールできない不均一な倍音構成」がギターの音色の大きな魅力となっているのです。
といっても、それは不安定な響きというわけではありません。
それなら素人が作っても同じことです。ここで述べているのは、現在の科学力では再構成不可能な音響が生れるということです。
表面板全体で音が発生したとき、安定しながらも不均一な木の細胞組織が、さまざまな振動をして、その音波が干渉し合い、魅力的な音色を生み出すのです。
しかも、それは一つのパターンしかないわけではありません。
弦に与えるエネルギー量、弦の振動方向その他の要素が絡(から)み合い、無限の変化を生み出します。
私たちは、その要素をある程度把握して、コントロールして演奏表現をするわけです。

更に魅力的な音を生むヴィブラート

音が「豊かで輝かしい印象」を人に与えるためには、一定した波形の音ではなく、揺らぎのある音である必要があります。
だから、表面板全体を震動させるような弾き方が必要なわけですが、更にもっと魅力的な音を生む方法があります。
それが「発音後の音処理」です。即ち、左指の押弦圧力を変化させて、微妙な音程の変化を生むことによって、音の干渉を起こさせるわけです。
そうすることによって、より一層の音の変化を作り出すことができるわけです。
その代表的な技術がヴィブラートです。
このヴィブラートには2つの演奏効果があります。
(1)音に変化をつけて「美しい音」を作る。
(2)音程を変化させることにより、余韻を長く(音を伸ばす)させる。

ということです。
ヴィブラートはギターを弾くうえで、その魅力を引き出す最高のテクニックです。
ヴィブラートが上手だとそれだけで、うまい演奏という印象を人に与えることができます。

ヴィブラートのかけ方

ヴィブラートをかけるには発音後に左指の押弦圧力を変化させます。
その方法は2つのポジションで違いがあります。


また、ミドルポジションではハイポジションの方法を使いますが、その境界線は曖昧(あいまい)です。
どちらのパターンでヴィブラートをかけるにしても、重要なことは指の先端にパワーが集中していることです。
無駄な「力み」を抜いて、必要なパワーだけが押弦に使われるように練習しましょう。
勿論、ヴィブラートの技術はこのステップだけでマスターすることはできません。
これ以降のステップの曲にはすべてヴィブラートを使うようにしましょう。
いろいろな曲を弾きながら、その極にふさわしい使い方を覚えてゆきましょう。
専科のステップが終わる頃にセンスの良いヴィブラートのかけ方がわかれば良いというものです。