専科-2ステップ(1)

専科-2ステップ(1):
メロディを歌わせる(指向性)・立体的表現のための遠近法

メロディを歌わせる『フロー感覚』

この曲は「歌」ですからギターを歌わせて弾きたいものです。
歌うように弾くということはメロディが美しく流れてゆくということです。
そうした『音楽表現技術」の一つとして、ベースドライブを使って音楽を進行させるという方法を本科では学びました。

音楽が進行するということを一般的に述べると「流れる(フロー)感覚」ということになります。
このフロー感覚を作るために「ベースドライブ」というテクニックを使ったわけですが、低音をH(ヘヴィトーン)→L(ライトトーン)と交互に弾くと何故フロー感覚が作れるのかということを考えてみましょう。

フロー感覚が生れる原理


ギターの低音弦をしっかりプッシュして(0系の強い音)弾くとA図のような音量の変化が生れます。
発音の直後の音は急激に成長し始め、頂点に達した後、徐々に衰退します。
ところが、よく耳を澄ませて聴くとギターの音の場合は「音量衰退」するだけでなく「音質変化」も起こっています。
これを図にするのは難しいのですが、一つのモデルとしてはB図のようになります。

ギターの場合、発音された音は弦の振動エネルギーの性質がそのまま増大されてボディ(=音量増減装置)によって振動エネルギーが音に転換されるだけでなく、弦の振動方向と表面板の位置関係によって、音の性質が変わるという特徴があります。

単純な弦振動の場合、音量の変化はA図のように発音後すぐ頂点に達し、そのまま緩(ゆる)やかに衰退していきます。しかし、ギターの場合は弦の振動エネルギーが表面板の震動に転化されて音になるのでA図のように単純な音量の変化があるだけではありません。
実際の音はB図のように、音質が変化してゆきます。
一応「音量」はあるのですが、その質が希薄になってゆくということです。

ギターの音は、純粋に「横振動」を与えた場合、ほとんど音量が出ません。逆に純粋な「縦振動」を与えた場合には「高次倍音」があまり含まれない音になり、音色として魅力のない音になってしまいます。

ギターの基本的な「良い音」というのは程よく縦・横の振動がミックスされた音であると言えます。

それに加えて重力も音の変化の因子として働いているのです。
表面板を床に対して垂直に構えて弦を横振動(表面板に対して平行に)させた場合、また、表面板を床と平行に構えて弦を縦振動(表面板に対して垂直に)させた場合はわりと純粋に近い「横振動の音」と「縦振動の音」が得られます。
これは重力の働きによって弦が地球に対して垂直方向に引っ張られる力が働くという要素が働くからであり、もし、ギターを床に水平に構えて横振動させたなら、出てくる音は徐々に縦振動の音に変わっていくという現象が起こります。

また、逆に、ギターの床に対して垂直に構えて縦振動をさせたら、発音された音はやはり徐々に横振動の音に変化していきます。
ただし、これは低音弦に起こる現象で、質量の軽い①②③弦ではほとんど重力の影響はありません。

そのほかにも、ネックの角度、表面板の構造(木材の質、力木の配列等)、身体との密着度によっても音の形(トーンプロポーション=音量・音質の変化)は変わりますが、これらの要素はそれほど大きな影響はないのでここでは考えないことにしましょう。

ギターから発音される音が「重い」響きから「軽い」響きに変化すると聴く人が「心の開放感」を覚え、「音が流れる(時間の経過感覚)」ような感じを受けるわけです。
そうした感覚を人に与えるテクニックが「ベースドライブ」のテクニックなのです。
だから、ベースドライブが「フロー感覚」を作り出すのです。

ヘヴィトーン ⇒ ライトトーン = ベースドライブ
f + )    ( mp + ) (低音弦の進行感覚)