26.右手のテクニック(3)

26.右手のテクニック(3)

『正しい右手のフォームと筋肉の使い方』

 ギターを弾くための筋肉動作は、能動的なものではなく受動的なものを用います。
 こうした、表面に見えないことを文章で説明するのは難しいことですが、ぜひ、体験と感覚を通して理解してほしいと思います。
 ギターを弾く動作というのは、弦を振動させるために爪の先端を弦上に置き(セットアップ)、圧力を加え(プッシュ)、離弦(デタッチ)するということです。

 その場合の力の使い方は、弦を叩くような力ではなく「弦を押して離す」ような力を用いることが重要です。
 発音の瞬間に指(爪)先は弦から素早く離れますが、このデタッチスピードが速ければ速いほどピュアなデタッチになります。

 こうしたことを瞬間弾弦という言葉を使って表現する人もいます。
 ジャスティではクィックアタックまたはジャストデタッチと言っています。いずれにしても弦に加えたエネルギーを効率よく弦振動のエネルギーに転換するためには非常に大切なことです。そうすることによってギターは余韻の伸びる美しい音を発します。

 デタッチスピードが遅いと、弦は
 1.爪の裏に再接触し
 2.振動エネルギーを失い
 3.不安定な初期振動をします。
 つまり、
 1.雑音のある
 2.音量の小さい
 3.余韻の伸びない音になる

 ということになります。それを防ぐためにクィックアタックを心掛けるのです。

 そして、デタッチポイントにパワーが集中するジャストデタッチを行うためには、能動的な指の動作よりも受動的な動作の方が圧倒的に有利なのです。
 そうした、指のバネの反動を利用してデタッチ動作を行うのが、受動筋主動のアクションなのです。

 そして、弦の振動は弦自身の『たわみ』がそのエネルギー源になります。打楽器のように、弦に衝撃を与えて音を出すのではなく、あくまで弦自身の『たわみとその反動』が振動のエネルギー源となるのです。

 演奏者の立場から見れば、自分の力で音を出すのではなく、ギターの力を使って音を出すのです。これは重要なことです。
 また、音楽はただ1音だけで作られてはいません。だから、連続して発音動作を行う必要があります。その場合にも受動筋を用いる方が疲労も少なくスピードも出ます。

 そういう理由で、受動筋主動の力を使ってギターを弾こうということになるのです。
 その前提に立って、その動作が合理的に行えるフォームが定まってきます。

 合理的なフォームのポイントは
 1.最小の力で最大の効果を得られること
 2.その運動が長時間続けられること

 です。

 では、具体的にはどうすれば良いのかということに話を進めましょう。
 受動筋を使うためには、まず、先に指の各関節を固定しておく必要があります。
 関節がゆるんでいると、弦に圧力を加えることができません。
 指の関節を固定しておき、腕の重さ(アームワーク)もしくは手首からの動き(リストワーク)で弦を「たわませる」というのが、ジャスティ奏法の基本です。

 セットアップして、プッシュをすれば、弦からは反作用のパワーが指先にかかります。
そのエネルギーの逆流といってもそれほど大きな負荷ではありません。単音の場合、高音弦なら300グラム〜800グラム程度、低音弦になると500〜2キログラム程の負荷がかかります。

 各関節を固定していないと、その負荷に対抗しようとして自動的にフィンガーワークを行ってしまいます。そうなると、アタック動作を行う際に、逆に関節は固くなってしまい、その結果、デタッチスピードの遅いアクションになっていまいます。

 関節を固定するということは、そうすることによって、アタックの際、指にしなやかな柔らかさを与えらるということなのです。

 先にも述べましたが、弦に力を加える瞬間に関節が固定されていると、弦からの負荷が身体全体に拡散し、指や手首に無理な負担がかかりません。だから、疲労が蓄積されず、また速い動きが可能になるのです。

 逆に、関節をゆるめておいて、パワーをかけた瞬間に逆流する反作用の力に反応してそれに対抗するように関節を固定したら、弦から戻る負荷を指だけで解決しなくてはならなくなります。
 その結果、すぐに疲れたり、力んでしまって素早い動きができなかったり、腱鞘炎になったりとあまり良いことはありません。

 関節を固定するということは、パワーをかける瞬間に要求されることであり、離弦動作の時は固定をゆるめて弦を逃がすようにすることが必要です。
 離弦動作中も関節を固定し続けたら、弦は爪先から外れることができません。これを間違えないようにしてください。
 というわけで、そうした関節の固定を行うために右手のフォームは拇指対立筋を緊張させることになります。

【A-1】 リラックスした指の状態 【B-1】 対立筋を緊張させた指の状態
【A-2】 弦からの反作用に耐えられない 【B-2】 弦からの反作用を吸収する

 A-1の写真は、普通の右手の状態です。この状態でギターを弾こうとするとA-2のようなフォームになります。この場合、どうしてもアタック動作はフィンガーワークになってしまいます。

 正しく筋肉動作を制御するためにはBのように、きちんと対立筋を緊張させて、関節を固定したフォームを作る必要があります。

 さて、次の問題は力の流れです。写真Cを見てください。
 広げた指を3段階に閉じていく様子を写してあります。この写真がテキストでも述べられている『拇指対立筋(ぼしたいりつきん)』と『長掌筋(ちょうしょうきん)』を緊張させて、
i m a 指の関節をしっかり固定させた場合の右手のフォーム
です。
手首の中央に緊張した長掌筋がはっきり写っています。

 Dは、ただ指を屈曲させただけの場合で、長掌筋の緊張がありません。これでは、弦からの反作用を吸収できません。各指をばらばらに屈曲させるのではなく、1点にパワーを集中させながら、その緊張をゆるめずに各指を広げるようにしましょう(C-2)。

【C-1】 p 指を対立動作で緊張させる 【C-3】 p i m a 指が1点にまとまる
【C-2】 i m a 指を p指と対立・緊張させる 【D】 p i m a がバラバラに屈曲している