専科-1ステップ(1)

専科-1ステップ(1):
ギターのソノリティ(音楽のリアリズム)を創る

ソノリティについて

美しい音楽を作るための重要な要素に「響き」というものがあります。
音というものは「高さ」「強さ」「長さ」「音色」etc.というものによって性格が作られていますが、それらの「音」をまとめた場合、一つの「調和した響き」が生まれます。

しかし、その「調和した響き」は自動的に生まれるものではありません。
やはり、1つ1つのバランスをとらないと良い響きは生まれないものです。
自分の楽器の性格をよく知り、うまく響くような音形とバランスのとれた各音の表現があってこそ、楽器は美しく響きます。

言葉に例えるならば、何かを食べて「おいしい」と感想を述べたとした場合、
(1)心からおいしいと感じた場合
(2)まぁまぁおいしいと感じた場合
(3)それほどでもないけれどごちそうしてくれた人に対する礼儀として述べた場合
(4)まずかったけれどごちそうしてくれた人に対する礼儀として述べた場合
等といろいろな場合の「おいしい」が考えられます。

この「おいしい」という情報が単なる言葉として相手に聞こえた場合「本当?」などという答が返ってきたりしますが、それはさておいて、論理としての文脈に、意味を表す「響き」が加えられたとき、言葉は生きてきます。
勿論、日常生活では更に、顔の表情や身振り手振り(ジェスチャー)も加わって、感情の情報交換を行っているわけです。
(4)の場合など「まず〜い」と言った時の方が真実味(リアリティ)があることでしょう。

この真実味とは如何(いか)なるものでしょうか。
結論から述べるならば、「心と一致した表現」だと言えます。
心からおいしいと感じた人が「おいしい」と言うと、顔の表情も動作も『おいしい』という概念(がいねん)を表現するものです。
こうした条件の中で述べられた言葉には説得力があります。それは「真実の言葉」だからです。

では、その言葉を聞く人は何を感じてその言葉を聞いているのでしょうか。
音声と全体的な雰囲気を漠然(ばくぜん)と感じながら、その言葉の意味を理解するわけです。
言語というのは、だから不完全でありながらも私たちのコミュニケーションを>円滑(えんかつ)に進めているわけです。

言葉には「論理だけでない情報」が含まれているのです。
たとえ話し相手の姿が見えなくても、口調や声の響きで「論理以外の情報」を私たちは読み取っている筈です。

そうした「表面的でない情報」が音楽にもあります。
「高さ・強さ・長さ・音色」以外の情報とは何でしょうか。
その代表的なものは「音色の時間的変化」です。
ギターの基本的な音色は変わりませんが、その範囲の中で微妙な「倍音構造の変化」を行うことにより音にリアリティを与えることができるようになります。

こうしたことを称して「ソノリティ」=調和した響きと言います。
ソノリティのある演奏とは、バランスよく響いて説得力のある演奏であると言えましょう。つまり、リアリティのある演奏であるということになります。

音のニュアンスを表現するには

では、具体的には「倍音構造」を変えるにはどうすれば良いでしょうか。
そのためには基本発音方法の「(+)の音 ・0(ゼロ)系の音 ・-(マイナス)の音」という音色の種類の使い分けをします。

+系の音はどちらかというと柔らかい感じで、母音で言うと「う・お」に当たります。
0系(+でも−でもない音)は、明るい感じで母音で言うと「あ」に当たります。
−系の音はちょっときつい感じで、母音で言うと「い・え」に当たります。

音価のリアリティとは

これらの特徴をうまく利用して、曲の流れに合った音色を選択します。
響きの真実性を備えるてくると、当然のことながら「音価」も変化してきます。
例えば4分音符( )のタイム(現象的時間)は毎回同じではなくなります。
より豊かに響く音とやせている音では「空間に占める割合」が違います。したがって、4分音符のタイムも微妙に変化するわけです。

より響いた音のほうがそうでない音よりもタイムが長くなるのです。
ただし、このタイムの変化は「心理的な時間の変化」とは違います。
演奏者が心理的な時間感覚を感じ、その時間感覚の中でタイムを決めて弾いても、聴く人には「現実に出ている音」しか聴こえませんから、その演奏はおかしなものとなって聴こえてしまいます。

そういう演奏を「一人よがりな演奏」とか「思い込みの激しい演奏」などといいます。演奏(現実)というものは冷厳なものであり、物理的根拠のないことがあってはなりません。
演奏者のファンタジーを表現するためには、そのファンタジーそのものを支える現実的表現が必要です。

つまり、それがリアリティのある音価ということです。その瞬間にふさわしい音量と音色、そして時間があるのです。
深い響きの音・浅い響きの音、大きい音・小さい音等を明確に弾き分けてそれぞれの音にふさわしいタイムを与えるように努力しましょう。
そのとき、音楽は生命を持ち始めます。
勿論、音色とタイムという2つの要素だけで、音楽表現があるわけではありません。

このほかにもアーティキュレーションや、トーンプロポーションの問題等もありますが、このステップではまず、音色のセンスを磨き、それに伴うタイムの変化というものを体験してゆきましょう。

 

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