専科-6ステップ(3)

専科-6ステップ(3):
総合練習・ダイナミックスの変化

ダイナミックスの変化

音楽の表現方法のうち最も重要なものは「ダイナミックス」です。
いわゆる音量の増減ということです。
これは「デュナーミク」とも言われていますが、ジャスティギターテキストでは「ダイナミックス」という言葉を使います。

さて、このダイナミックスですが、この言葉が意味する内容は実は単純な音量の増減と考えてはなりません。
一言に、「大きい音量」と述べた場合、音楽的には少なくとも3種類の意味内容を含んでいます。

(1)デシベルという言葉で表されていますが、空気振動の振幅が大きい音ということで、いわゆる「強いエネルギーの音」ということ。
(2)音のエネルギー(空気振動を起こすための)は大きくはありませんが、音の波形が鋭く高次倍音の比率が多い音の場合で、「緊張感の高い音」ということ。
(3)振動エネルギーも程よく大きく、音の波形(倍音比率)が程よいところで安定していて奥行きを感じさせる、いわゆる「響きの豊かな音」ということ。

このほかにも、まだ多くの要素があると思いますが、あまり考えすぎると理屈が先走ってしまいますので、とりあえず上記の3つの要素について考えてみましょう。

もう少し分かりやすい日常語で言うと

(1)=大きい音
(2)=強い音
(3)=深い(豊かな)音

という具合になると思います。

しかし、こうした感覚的な話は「何となく分かるような気がする」ものですが、それだけでは演奏に役立ちません。

現実に「何かを形作る(=ギターを弾く)」には、物理の法則から離れて行うことはできません。

演奏を行うということは、自分の心理的表象を表現することでもありますが、その「現れた表象」は確固たる物でなければなりません。

「形」としてしっかりした物」が自分の描いたイメージと違えば、それも正しい表現とは言えません。

このような『音の性質』の識別能力は簡単には育ちません。
先生の模範演奏を何度も聴いて「感覚として」理解できるようになりましょう。
そうした感覚を持ったうえで、自分の演奏をよく聴きながら練習しましょう。

耳と指の操作のフィードバックを行うことによって、確実な表現技術がマスターされていきます。
いずれにしてもジャスティメソードでギターを学ぶ皆さんは、ダイナミックスについては、単に「強い音・弱い音」という一般観念から脱出して考えましょう。

無常ということ

この世に存在するものはすべて変化し続けるものであり、いかなるものであってもけっして一つの時間(限定された存在形態)にとどまることはありません。
当然のこととして、音楽世界を構成する1つ1つの楽音も同じように常に変化し続けるものです。

一つの音が発生して消えてゆくまでの時間というものは生物の一生と同じように「誕生・成長・衰退・死滅」という状態を経るものです。
こうした「音の変化」を適当に表現するからこそ名演奏は生きて」いるのです。

例えば、4分音符で「ド」という高さを持つ音が8つ並んでいた場合、(もちろん拍子によっても条件は異なりますが)それらの音を皆同じように弾いたとしたら、聴く人の心にどんな印象を与えるでしょうか。
おそらく「非常に退屈な時間」を過ごしたというような気分が残るだろうと想像することができます。

それは何故でしょうか。
人は現実世界の中で育ち、その現象のあり方(引力に支配されている物質の運動や自然の中で花や木が時間の経過と共に変化してゆく様子など)を経験して、自分の世界観を形成してゆきますからそれに反するもの(この場合は機械的な音の羅列)には心が反応しない(嘘っぽく感じる)からです。

楽曲を構成する1音1音、それらがすべて変化しつつフレーズを作り、また、そのフレーズの表情も常に変化しつつ、全体的には統一感を与えるような音構成ができると、人はそこにリアリティ(実在感)を感じるのです。
音楽という『世界』も確固たる存在なのです。
ただ、物質的な存在ではないので、表面的には確固とした存在だと分かりにくいだけなのです。

 

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