専科-6ステップ(1)

6ステップ(1):総合練習

音の持つ「意味」について

音というものは「単音」でなっているときにはあまりニュアンスを持ちません。
和音として鳴ったときに初めて「心」を伝えるものとなります。

例えば完全5度の音階は「安定」を表しますし、短2度の音程は「不安」を表します。勿論、一瞬にこうであると言い切ることはできませんが、大部分の人間はそのように感じます。
これは、進化の歴史の中で、生物が海から陸に上がり「聴覚」を持ったときからの発達の過程で生じた性格なのです。
「空気振動」とそれに反応する「感覚器官」は、人間ならばだれでも同じような機能を持っています。

つまり、人間である限り、だれもが同じように聴き分けるもう力を持っているということです。
その上で、訓練された「脳」とされない「脳」の違いがあるということです。
音がインプットされる状態は同じなのですが、その意味を識別する能力は人によって異なります。

一般的な日本人は「英語」の発音を聞き取るのが苦手です。
これは、耳慣れない音声だからであり、耳が聞き分けられないのではなく、脳が反応しないだけなのです。

脳の反応ということをもう少し掘り下げて考えてみますと、人間の『象徴の能力』ということにたどり着きます。
象徴(シンボル)とは物自体ではなく、抽象的概念(ちゅうしょうてきがいねん)であると言えます。
抽象的概念とは言語能力ということにも置き換えられます。
私達は言語によって考えます。また、記憶も大変は言語体系の中で行われます。

例えば「嬉しい」と言う感情は、言葉として把握している感覚です。
探していたものが見つかった時の感情。
運動会で一番になった時の喜び。病気が治って病院から帰ってきた時の気持ち。
ギターが上手になった時の充実感。
数え上げればまだまだたくさんの例が挙げられます。
これらの状況においてその人が感じている「瞬間の感情」はそれぞれ違うものです。

しかし、ほとんどの場合「嬉しい」と言う言葉を使って一つの概念に括(くく)ってしまうのではないでしょうか。
更に深く考えて「嬉しい」とはどういうことなのかという定義をしようとしても、なかなかできるものではありません。
何となく「嬉しいっていうのはこんな気持ちのこと」と定義付けることしかできません。

逆に考えると、日常生活のいろいろな「嬉しい経験」は本当に嬉しいと感じているのかという疑問も出てきます。
実は「嬉しい」という言葉があるから(そして自分ではその言葉の意味を分かっているつもりになっているから)、様々な感情を「嬉しいという感情に分類してしまう」のではないでしょうか。

つまり、私達は「嬉しい」という感情を社会から学習したのです。
そして、いろいろな経験を分類してそれぞれの概念に当てはめて考えているのです。
そうでないと、人生(経験の記憶)から何も得れなくなってしまいます。

また「おまえなんか死んでしまえ!」といわれたらとても悲しい気持ちになります(あるいは怒ってしまう人もいるでしょう)。
が、日本語を理解しない人がこの言葉を聞いても何も感じないことでしょう。

この「音(=言語)」は学習したものにだけ意味をなすものだからです。
そうした訓練が必要な「音の識別」とは異なり、音楽の音そのものに対する感性はすべての人間に共通するもので、ダイレクトに脳が反応するのです。

勿論、ソナタ形式とか交響曲などのようにある程度音楽経験がないと、その真価が理解できない曲もありますが、それはまた別の価値になります。
音楽の美しさは、基本的には特別な学習経験がなくても感じることができるものなのです。絵画や短歌の世界とは違い、価値のあるものといわれていた物が、作者が違うと判明したら急に価値のない物になるということはないのです。

音楽の価値はまさにそのものなのです。
社会的な価値付けは要らないのです。だから、
『音楽に国境はないのです!』
ギターを弾きながら、耳を澄ませて、自分の出している和音をよく聴いてみましょう。
その和音が要求しているニュアンスが聴こえてくる筈です。
「明るい響き」「柔らかい響き」「重たい響き」などのニュアンスが感じられたなら、今度は、その性格を更に強調する音色を作る努力をします。

単純なハーモニーの場合はマイナーなら「しっとりした感じ」、メジャーなら「明るい感じ」ということでしたが、実際には実に多くの「響き」があるわけであり、昔の音楽学校ですと、これらのいろいろな「響き」を楽譜の分析をして理屈で意味付けをしていたりしましたが、ジャスティギターメソードで音楽を楽しむ皆さんは、「感覚で把握」することによって理解するようにしましょう。

このハーモニーバランスの感覚を覚えるためには、実際に美しいバランスのとれた音楽(演奏)を体験することが重要です。
言語の学習にも言えることですが、文字から学ぶことはほとんど不可能なことで、やはり、この言葉を耳にしていきながら、記憶の助けとして文字を覚える方が合理的なことです。
先生の弾く美しい音楽に耳を傾けて、その響きを心に刻み込むような努力をしてください。
そのヴィジョンにそって自分でも「その音楽」が再現できるように練習しましょう。

 

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