専科-2ステップ(3)

専科-2ステップ(3):
メロディを歌わせる(指向性)・
立体的表現のための遠近法

演奏を立体的にする遠近法

人が音楽を聴いて「美しい」と感じたり、楽しく思ったりするためにはどんな演奏であれ『実在感』が必要です。
その実在感を出すために(リアリティを持たせるために)自然なトーンプログラミング(音色の設定)、アゴーギク(速度の変化)等の表現を付けたわけです。

それに加えてもう一つの重要な要素があります。それがフォルム(立体感=奥行きの変化)ということです。
この要素は今まででも意識してきたことですが、ここでもう一度しっかり考えるようにしましょう。

左の図はギターの音量と音色の関係図です。
この中で「M」という音量記号がありますが、一般的にこの記号は使われていません。
音量の大小を表す記号は pf だけであり、いわゆる「普通」という指定の記号は無いのです。
ここでは便宜上「弱い・強い」、そしてその中間の音量ということで「M」という記号を使いました。

しかし、こうした区別は基本的なものであり、実際の曲の中では明確に指定の音を出すことはできません。
だからといって、こうした「音色の種類」の設定が机上の空論であるというわけではありません。

これはギター演奏上のの基本中の基本なのです。
カラーテレビはさまざまな美しい色を楽しませてくれますが、ブラウン管の裏にある「色を生み出す装置」には赤・青・緑の3原色を作る性能しかありません。
その3色をうまく配合することによって無限に近い様々な色を作り出しているのです。

ギターの場合も同じようにまずはしっかりと3種類の音色・3種類の音量を区別して出せるようになることが重要です。
そのうえで、実際に曲を弾く時には3つの区別の中間の音も出すわけです。

基本的には p はノンプッシュ奏法、f はプッシュ奏法で弾きます。
そこで本質的な要素は『演奏者の感覚』ではなくて『弦の振動状態』にあります。

ノンプッシュ奏法でもやはり弦は多少プッシュされています。そうでなければ弦は爪先にフックされたまま外れることができません。

つまり、プッシュ奏法もノンプッシュ奏法も結局は弦をたわませてから爪を外していることに変わりはないのです。
ただ、その際にどの程度のエネルギーを弦に掛けているか、ということを演奏者が「自分の感覚」として把握する一つの目安としてこの2つの弾き方の区別をするということです。
そのうえで、その中間のパワーを掛けるのが(プッシュ奏法)「M」のパワーということになります。

こうした3種類の音の区別をしっかりとつけてアルペジオやスケール等の基礎練習をしましょう。
実際に曲を弾く場合には、その曲のイメージをもって弾くことが大切であり、そうすることによって適切なパワーを掛けることができるようになります。

さて、3段階のパワーの掛け方は区別できるものとして、そのパワーを使って3種類の音色も弾き分ける必要があります。
その時、アタックポジションは同じならばはっきりとした区別ができるわけです。

もし、[B](ブリッジポジション)で「+の音」を出そうとしたらどうなるでしょうか?
勿論、このポジションにおいて「+・0 ・−」という3種類の音色を弾き分けることができますが、『[F]0』(フレットポジションの0の音)よりも「−系の音」に聴こえます。

つまり、アタックポジションを変えると音色も変化するわけであり、弾く感覚が「+の音(=レガートアタック)」であってもアタックポジションを『[F](フレットポジション)』から徐々に[B]に移動させていくと音色も「+の音」から「−の音」に変化してゆくことになります。

結論として、3種類のパワー・3種類のタッチ・3種類のアタックポジションという要素がギターの基本奏法ということになります。
単純に考えるならば3³(3の3乗=27)ということで、ギターでは基本として27種類の音が弾き分けられるということになります。

それに加えて、中間の音まで考えるとほとんど無限の組み合わせで、千差万別(せんさばんべつ)の音が作れるのです。
そうした音をどのように使うかということが演奏者のセンスにかかっているわけです。

「重い感じ・軽い感じ」も「深い感じ・浅い感じ」もすべてがこの音の中から選ばれるのですが、実際に音には「重さ」も「深さ」もありません。
しかし、聴く人にそういう印象を与えることができるのです。
このステップで表現したいのは「遠い・近い」というイメージです。そのためには

遠い感じの雰囲気= mp 以下の音量・または f であっても[F]+の音
近い感じの雰囲気= mf 以上の音量・または mp であっても[N]0の

という音の設定(トーンプログラム)が効果的です。
メロディは「近い感じの音」で弾くのが基本です。
風景画の「主人公と背景」のようなものを想像してみてください。
当然、伴奏音は遠い感じの音になります。
勿論、感性によっていろいろなパターンが考えられます。
よく音を聴いて、納得のゆく音作りをするようにしましょう。