23.左手のテクニック(5)

23.左手のテクニック(5)

 これまで10回に渡り<人間工学とギターテクニック(1)〜(5)&左手のテクニック(1)〜(5)>左手の基礎フォーム・アクションのことを述べてきました。

 勿論、こうした事柄はテキストにも記述されていることです。ただ、テキストではその人の進歩に合わせて、そのときに必要なことが部分的に記述されているので、全体像が分かりにくいということもあります。

 こうして、体系的にまとめられたものを読むと、より理解の度合いが進むかもしれません(それを願ってこの文章を書いているのですが・・・・)。
 そして、左手の基本的テクニックはこの10回の話ですべて語ったことになります。
 これ以上の『奥義』とでもいうべきものはありません。

 いわゆる名人というレベルの人は、この基本を丹念に繰り返し、その基本に熟練した人であり、特別なことを行っているのではないのです。
 上級者になればなるほど、実は、より基本に忠実なフォーム・アクションを行っているのです。

 また、基本があれば、その上には応用ということがあります。
 その応用テクニックとはどんなものかと言うと

 ①『左指の拡張』
 ②『指のチェンジのスピードアップ』

 ということです。

 ①の拡張に関しては、テキストを進むうちに皆さんも何度か経験していることと思います。ギターを弾き始めたばかりの頃は、左指が自分の思うように動かないものです。
 2指で押弦しようとすると4指が立ってしまったりする『指の連動動作』に悩まされたりしたことがあると思います。それが、いつのまにか連動動作が消えて『各指の独立性』が養われてきます。

 また、ある音形を押えようとしても指が思うように広がらず、変な形で無理やり押弦するということもあります。それもある程度のキャリアができると、それまで不自然だった押弦フォームが段々自然な形になってきます。
 『左指の拡張』がされてきたのです。
 この拡張に関しては、単に指関節の柔らかさが問題になるのではありません。指の柔軟性をアップさせるためのトレーニングというものもありますが、単独でそれを行っても効果はあまりありません。

 問題は押弦に使う筋力と指の拡張に使う筋力の関連性なのです。どういう命令が脳から運動神経に発されるかということが重要なのです。極論を述べると指が開くかどうかというのは指の柔軟性の問題ではなくほとんど脳の指令系統、つまり、音楽性の問題ということなのです。
 だから、指の運動性のみを訓練するのではなく、曲に合わせて(音形のパターン認識)同一音形(同じような押弦フォーム)をマスターし、そのフォームと関連性のある動きを覚えていく方が上達が早いといえましょう。

 ということで、本科では「イ長調」を中心とする和音進行の曲、専科では「ニ長調・ニ短調」の曲を中心にカリキュラムが組まれているのです。こうした、同じような押弦フォームの曲を繰り返し練習することによって、左指の動きが滑らかになってくるのです。

 基本科・本科・専科と少しずつ複雑な押弦フォームが現れてくるとはいえ、専科まではそれほど困難な音形は登場しません。ここまでは指の拡張といっても「拡張の技術」とわざわざ強調するほどでもないのです。

 しかし、音楽は指の都合で作られるわけではありませんから、どうしても指に大きな負担がかかる曲というのも生れてしまいます。そうした曲が研究科以降に登場します。その場合、やはり「指の拡張」がある程度必要になってきます。ジャスティの場合、そうした指の負担を少しでも減らすために弦長が640ミリのギターを開発してきましたが、それでもある程度の拡張技術が必要です。

 そして、これはギターに限らず多くの事柄に共通したことですが、それ以降はどこまでも「スピードと正確さ」の問題になります。

基本科のテーマ


基礎ステップではローポジションの音程とフレットの関係を覚える。
応用ステップでハイポジションの音程とフレットの関係を覚える。
斜めのセーハのフォームを覚える。
本科のテーマ


斜めのフォームと直角のフィームの使い分け、イ長調を中心とする和音の変化による音形の押弦フォームをマスターする。
スラーを使って各指の独立性、俊敏性を養う。
低音弦のハイポジションの音程を覚え、ポジション移動の技術をマスターする。
専科のテーマ


スラー等の練習により骨間筋・浅指屈筋・深指屈筋を鍛える。
ヴィブラートをマスターする。
押弦圧力の変化によってトーンプロポーションを作る。
音楽の内容にあわせた運指法をマスターし、美しい音の響きを作れるようにする。
研究科のテーマ


各指の独立性に加え、拡張、俊敏性をグレードアップさせる。
曲のテンポに合わせて(ゆっくり・ふつう・はやい)3種類の基本的トーンプロポーション(押弦圧力の変化)をマスターする。
豊富な種類のヴィブラートをマスターする。

 

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