22.左手のテクニック(4)

22.左手のテクニック(4)

 左手の基本フォーム・アクションを身に付けるために、本科前半ステップの人は「半音階の練習」を行います。そして、そのレベルアップのために本科後半ではスラーの練習を行うわけです。
 そのどちらにしても、基本的な考え方は左指の1〜4指が同一弦上にあることを前提条件としています。だから、基本フォームは当然「斜めのフォーム」となります。
 このフォームをとることによって、各指の負担が最小限で済むようになるからです。

 何度も述べていますが、人間の「本来持っている指の機能」と「ギターの要求するテクニック」をバランスよく妥協させることが、いわゆる『合理的テクニック』を身に付けるということなのです。
 人が難しいと感じる音形(押弦フォーム)というのは、単純に考えればその音形を押えると左指の押弦フォームが「不自然」な形になってしまう音形であると言えましょう。

 『不自然?』――何に対して?
 人間の本来持っている指の機能に対してです。では、本来的に備わっている指の機能とはどういうものなのでしょうか?
 この問題に関しては純粋に医学的な問題として考える方法(人間工学的な考え方)と、一般的な感覚で考察する場合(世間の常識的考え方)があります。その、世間的考え方がここでは問題となるように思います。

 人が一般に「本来持っている機能」と言う場合、その言葉は「生まれつき備えている機能」のことを意味していないようです。
 指の機能のことだけでなく、他の運動能力や性格も「その人が成長する過程で身に付けてきた習慣」であることが大部分です。

 つまり『その人がこれまでの生活習慣でよく使った筋肉・神経機構のことや、それによってパターン化された動作のこと』を自分の「本来持っている指の機能」であると思っていることが多いようです。
 その場合、大半の人は『人間の備えている基本性能としての指の機能の限界』にはほとんどたどり着いていません。

 人間の持つ可能性は非常に高いものです。そして、正しく訓練すれば、誰でもその潜在能力を現実に発揮することができます。
 勿論、人により多少の個人差はあります。が、『ギターを弾くこと』をテーマとした場合、指に要求される運動能力は、潜在能力の限界よりはるかに低いものですから、その個人差は(潜在能力の低い人であっても)気にする必要はありません。

 きちんと順を追ってカリキュラムを消化してゆけば、誰でもある程度(音楽を心から味わえる)レベルに達することができます。
 いわゆる「苦手」な音形が出てきたとしても、それは現在時点の自分にとって「慣れていない押弦パターン」が出てきただけであって、しばらく練習してみれば、決して難しいとか不自然なフォーム(自分にとって)であるとかいうことはなくなります。
 ただし、それは人間工学的に正しいフォームで押弦をし続けた場合の話です。

 現在時点の「自分にあった自然な(と感じるが実際は解剖学的に不自然な)フォーム」を採用すると先に進んでから無理が生じることがあります。
 しかし、基礎練習で身に付けたフォームは1〜4指が同一弦上にある場合のフォームですから、これだけでは曲は弾けませんし、また、弾いてはなりません。
 このフォームはあくまで『基礎フォーム』なのです。物事には基礎と応用があります。
 この基礎フォームは

 1.合理的な基礎フォームを身に付ける
 2.指に必要な筋力を付ける
 3.各指の合理的アクションをマスターする

 という目的を果たすために必要なフォームなのです。
 だから、実際に曲を弾くときには1指と4指の関係がどうなっているかによって、斜めのフォームにするか直角のフォームを使うかという判断をします。

【写真1】 4指のMP関節に注意 【写真2】 肘・手首の角度に注意

 写真1は「E」のコードフォームです。この場合4指は使いませんが、1指と4指の関係をみると《1指が①弦・4指が⑥弦方向にありますから斜めフォーム》をとります。
 写真2は「B7」のコードフォームです。この音形は《1指が⑥弦・4指が①弦方向にありますから直角のフォーム》が妥当です。肘を身体から離して、手首を曲げ(ヘッド寄りにして)押弦します。

 1〜4指を同一弦上に揃える「スラー」や「半音階」の基礎練習では斜めのフォームを作り、課題曲では、曲の要求する音形に合わせて、肘の動きや手首の角度を考えて直角のフォームを作ったりします。フォームはこのように流動的(ダイナミック)なものであると理解しておきましょう。もっとも、本科前半のステップでは直角のフォームを用いることは極めて稀ですから、最初は斜めのフォームを積極的にマスターするようにします。

 また、先に進んだ人でも写真1のフォームのように4指を伸ばして(MP関節を固定して)2ステップの「ロンドンデリーの歌」の練習をしたりすると、効果的な左指の強化練習になります。こうした反復練習をすることは何よりも大切なことです。

 

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