3.音には色がある?

音には色がある?

音というのは「空気の振動」であると私達は教わります。
では、その空気の振動はどうやって起こるのかというと、これは「物体の振動」が起こすものです。
『物体の振動』などと言うと、すごく迫力がある感じがしますが、実はすべての物質は常に振動しているのです。
そして、その振動が充分に大きく、私たちの鼓膜に伝わるほどの空気振動を起こしたとき、その振動が『音』として私たちに感じられるのです。
まぁ、細かい話は抜きにして、音というのは空気の振動だと思ってください。

そして、人間はその音をどのように認識するのかというと、基本的には耳という器官で空気振動を捉えるわけです。
いわゆる「鼓膜」といわれる装置が耳の中にあって、その膜が空気の振動に呼応して共鳴するわけです。
その「膜」というのはもっと細かく観察すると約3万本の繊維からなっています。

皆さんはレッスンで「共鳴現象」による調弦のチェックを習っていることと思います。
それは、音の高さが合うと隣の弦が振動を起こすということでした。それと同じように、この3万本の共鳴弦が各々の長さ(音程)に応じて、耳に入ってくる空気振動(音)に反応するのです。
そして、その聴覚繊維が捉えた振動が信号となって神経を伝わり、その情報が脳に伝達されて、私達は音を感じることになります。

ところで。
ご主人の声を耳にするニッパー 人間の聴覚反応とでも言いますか、音から受ける心理的刺激というのは、聴覚繊維のどの部分が反応しているかということで決まってきます。
この線とこの線を反応させると快い、別のこの線とこの線を反応させると不快だという原則があります。
聴覚繊維がバランスよく刺激されると、その音は、心理的に快い音として感じられるものなのでしょう。
この線を反応させれば人間はこう感じる、ということを生理学的に分析することは、いつかは可能になるでしょうか、現在の医学では不可能です。

しかし優れた音楽家はその方法を体験的に知っています。
例えばギターで「ド」という一つの音を出しても、その音から受ける印象は、発音の仕方によってずいぶん変わってきます。
ジャスティメソード(テキスト)では一つの例として「+・0・−」の音色という区別をしています。
+の音は円やかな感じの音。
0 の音は明るい感じの音。
−の音は緊張感のある音。
という風に感じられることと思います。

同じ音程、しかも同じギターで弾いていてもその音のニュアンスはずいぶん違いがあります。
この違いはどこから生れるのでしょう。

答えは『倍音』の含み具合です。
「ド」という音は、実は純粋な「ド」の音だけでできているのではないのです。
「ド」の音の中には少しですが、不純な音が含まれています。その中でも最も多く含まれているのが「ソ」の音です。
ついで「ミ」の音、「シ♭」の音などが含まれています。
もっと細かく分析すると、実は殆どすべての音程が含まれていることになります。

1音の中にはすべての音があるのです。
なんだか仏教の教えのようですが、そこまでいってしまうと話がまとまらなくなってしまいますので、もう少し小さく考えることにしましょう。
「ド」という音には「ソ・ミ」という音が多く含まれているので、いわゆる「和音」として「ド・ミ・ソ」の音を同時に弾いてもよく調和する響きになるのです。
そこからハーモニー、つまり和音の原理が生れるのです。

また、それは単音の場合にも当てはまる原理なのです。
その音の『倍音』比率がどうなっているかで、私たちの音から受けている印象が変わってきます。
低次倍音が多ければ円やかな感じ(+系の音)で、高次倍音の比率が高くなっていくにつれて段々きつい感じの音(−の音)に感じるようになります。

それをギターで表現する場合、弦の振動を縦振動(表面板方向)にすると+系の音になり、横振動(表面板と並行方向)にすると−系の音になるのです。

私達は音を感じるとき、鼓膜の聴覚繊維の共鳴によって、大気の振動を知覚するわけですが、3万本もの聴覚繊維が1本ずつ空気振動に反応するほど精巧な聴覚装置は持っていません。
この繊維は何十本とまとめて振動するのです。
で、「ド」の音を耳にしても、ぴったりと「ドの周波数」の音に対応する聴覚繊維だけが共鳴するのではなく、「ド」の音に含まれている倍音に対しても反応して、その全体の音を「ド」の音程として感じているのです。

結論として、早い話が、音には色があるということでした。
その音色に対して理屈の裏付けをお話したのですが、まっ、そんな理屈よりも実際に音を耳にしたとき、同じ音程でもニュアンスの違う音があるのだと感じてくださればそれが最高の理解と言えます。

 

<< 理論2へ | 理論目次へ |