専科-音の基礎知識

専科-音の基礎知識:
弦振動と「音の波形」の関係

基本科・本科では「理論」というものを最低限しか覚えませんでした。
それは、理論というものを本当に理解するためには、具体的な「体験」が必要であるという考えからでした。
先に「現実」があり、それをよりよく把握(はあく)するためにその分析があるのです。

そこから一つの「体系」が作られると、進むべき道を推察することができるようになります。
次の「問題」が生じたときに、これまでの「体系化された体験の意味分析」(=理論)があると、類推をして、その問題を解決する糸口を見つけることができるようになるということです。
そのために理論があるのです。

というわけで、基本科・本科をマスターしてきた現在、皆さんは「理論」を知る基礎が身についてきたということになります。
ここで、自分の行っている演奏の「根拠」を知ることができると、演奏にも自信があふれてくるでしょうし、自分自身のやっていることの意味がよく分かり、更に進歩も著しくなることでしょう。
もちろん、音楽学者になるわけではありませんから、「理論のための理論」は覚える必要はありません。
実践的な事柄を覚えてゆきましょう。

音とはなにか?

普段、私たちが聴いている「音楽」に用いられている「音」というのは、楽音(がくおん)と呼ばれるものです。
それに対して、日常生活の中で耳にする音を「騒音」「雑音」と呼びます。

では、楽音とそうでない音の違いはどこにあるのでしょうか。
一般的に、楽音というものは「安定した音程を持ち」「音色も一定の音」のことを指します。
これを音響学的に述べると
(1)振動数(周波数)が一定している音
(2)音の波形(倍音構造)が安定している音

ということになります。このうち、(1)の周波数(いわゆる「音程」)についてはわりと感覚的に捉(とら)えやすいものと思います。
つまり、「音の高さ」ということです。

問題は(2)の「音の波形」についてです。
これが大きな意味での「音色」を作る要素になります。分かり易くするために、これを「言葉」にあてはめてみましょう。
日本語は「aiueo」という5つの母音がある言語です。そして、どんな高さで発音しても、この母音は「あいうえお」と聞こえます。
また、「あーー」と伸ばして発声しても、やはり「あ」と聞こえます。これは、「倍音構造」が同じ音であるからです。
音というのは基本的な音(=基音)に加えて「倍音」=派生する音が積み重なって、一つの音色を作っているものなのです。
これを音響物理学の見地から考えてみましょう。

 

1図のような図を見たことがありますでしょうか。
物理の講義ではおなじみの図です。
オシロスコープ(音を視覚で見えるようにする器械)で表された「音波」の図です。

音の実態は「空気の振動」です。ある発振体(ギターの場合は弦)が振動し、そのエネルギーが空気を振動させ、この振動を人間の耳がとらえて「音」と感じるわけです。 そして、この空気振動をオシロスコープで視覚に変換すると1図のようになります。
この図(サインウェーブ)の山から山までが1周期で、これが1秒間に何回生じるかによって音高が決まります。
現実にはこのようなシンプルなウェーブを描く音はほとんどありません。
この波形に一番近い音はテレビ、ラジオの発振音や音叉の音で「純音」と呼ばれています。

それに対し、自然にある音には濁りがあります。
一つの振動数だけでなくその音を中心にいくつ物周波数の音が混ざって1つの音を作っているのです。
2図のような波形が実際の楽音となります。

そして、ギターと言う楽器の素晴らしさはタッチによってこの倍音構造を変化させて、千差万別の音色を作れるというところにあります。
それも、単に「母音」の響きを変えるだけでなく、アタックの変化によって「子音」にあたる立ち上がりの音も作れるのです。
それによって、音楽の表現は千差万別の広がりを持つことができます。
そうした技巧を専科ではマスターしてゆきましょう。

 

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