8.アポヤンド奏法?

8.アポヤンド奏法?

 ギターの発音についての「方法論」をここでは展開しているわけですが、これまではそのうちの『発音時における弦の状態』について述べてきました。

 ところが、実際には弦は自動的にたわむことはありません。そこには演奏者の肉体的働きかけがあります。つまり、指先(爪)を用いて弦をプッシュするという動作(アクション)が必要なわけです。
 そして、指先を用いて弦をプッシュした場合、必ず「指先の離れ方(離弦=デタッチ)の問題が生じます。
 この時に、いかにスムースにデタッチするかということが、ギターの発音に関する最重要な要素となります。

 過去のギタリスト達はこのデタッチ方法を2種類に分けて区別していました。
 『アポヤンド奏法』と『アルアイレ奏法』という方法です。
 ジャスティ奏法以外のギター教本を手にした場合、ほとんどの教本には、まず最初にこの2つの奏法のことが述べてあります。
 一応、一般知識として知っておくと良いでしょう。アポヤンドとは「寄りかかる」という意味で、デタッチした指が次の弦に触れて運動を停止する奏法のことです。

 アルアイレとは「空間に」ということで、デタッチした指が次の弦に触ることなく空間に停止する奏法のことです。これは英語ではレストストローク、フリーストロークと呼ばれています。
 そして、現在の「一般ギター界」ではアポヤンド奏法で発音すると「豊かな美しい音」を出すことができ、アルアイレ奏法で発音すると「細いが余韻の長い音」が出るとされています。

 ところが実際にギター曲を弾いてみると、発音する音の90パーセント以上の音がアルアイレ奏法でないと演奏不能になります。
 しかし、アポヤンド奏法で弾いた音のほうが魅力的だという見解を多くの人は持っていますので「アルアイレでもアポヤンドに近い音を出すように」ということが述べられています。しかも、やや上級の教本になりますとアポヤンド奏法についての記述が更に詳しくなってきます。

 結局はギターの美しい音を求める目的なのでしょうが「真のアポヤンド奏法」などという言葉が出てきたりします。

 どういうことかというと「アポヤンド奏法とは単に次の弦に寄りかかる奏法のことではなく、既に寄りかかっている奏法のことである」とか「アポヤンドをする際には弾く指の(i m a指の場合)第1関節の力を抜いて弦をなでるように弾くのが本当のアポヤンド奏法である」逆に「弾く指の第1関節はけっして逆反りしてはならない」、「充分に深いタッチで弾くこと」等々、実に各説のアポヤンド奏法があります。

 では、その『アポヤンド奏法』なるものの実態は何なのでしょうか?
 意味論的に解釈しますと、本来は『音の状態』を述べるべきなのに『指の状態』でそれを説明しようとしているために混乱が生じているのです。

 多くのギタリストが教本で述べているアポヤンド奏法なるものは、「バランスよく弦振動が発生した場合に生れる音」が出るように弾くということであり、そのためには弾き終えた指先が次の弦に寄りかかるようにすると、求めた音が出やすいのです。

 デタッチの後のアクション(フォロースルー)が表面板の方向に向かうようなパワーの掛け方をして弾くと、弦には自然な圧力が掛かり、しかもその「たわみ」によって生じたエネルギーを(デタッチのアクションによって)相殺することなく振動に生かすことができやすくなります。

 これがアルアイレの場合ですと、指先を弦に引っ掛けて弦をかき上げるように弾くことになりますから、弦振動は大きい振幅を得ることはできません。
 もし、大きく振幅(強い音を出す)をさせようとすると、弦はフレットにあたって正しく振動することができなくなります。

 また、そのうえにタッチにも問題があります。
 つまり、過去のギタリストは接弦点に関して意識が集中していたようで、指先がどういう状態で弦に触れるかということに神経を使っていたようです。
 で、大半の教本には、強い音・豊かな音量を出すためには、指を充分に深く弦に掛け、そのまま押し切るように弦を通過させるように弾きなさいと書かれてあります。

 そのように弾くと、指に弦の抵抗が感じられますので、自分の感覚としては充実感を得られることがあります。ただし、指に無理な負担が掛かりますので「腱鞘炎(けんしょうえん)」という病気になる可能性が大変高くなります。
しかも、それで音が良くなることはありません。

 実は、他にもスムースにデタッチするための爪の形、一連のアクションの中でのパワーポイントの設定といった別の問題があるのですが、これら全部をごちゃ混ぜにして「真のアポヤンドとは?」等という記述がなされているのが20世紀のギター教本の現状です。

 が、ギターをよく観察すればどういう状態で弦が振動した場合、どんな音がするのかということが分かり、混乱が避けられます。
 ジャスティ奏法では一応の基準として3種類の音質(+・0 ・−)を設定しています。
 そして、その音を出すために、指の固定をするところから順を追って合理的なアクションをマスターしてゆくのです。

 

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