やさしくわかる音楽理論

やさしくわかる音楽理論 −1−
 
音楽ってなんだろう?

 昔々のおはなしです。
 盲目の国の王様が「珍しい動物」を連れてきた旅人の話を耳にしました。それはとても珍しい動物で、なにやら国中で評判になっているらしいとのことでした。
 そこで王様はお付きの従者を呼んで、
「その動物が果たして本当に珍しい物かおまえが確かめて来い」と命じました。
 しかし、一人だけでは心もとないので従者は仲間を呼んで4人で街に出かけました。
 そのあくる日、王様は早速、従者を呼んで報告をさせました。
「さて、おまえ達が触ってきた動物はどんな物だったか教えてくれ」
 この国の住民は目が見えませんから、物を知るには手で触って確かめるのです。
 一人目の従者が言いました。
「その動物はへびのような長くくねくねした形で、とても力が強そうでした」
 二人目の従者が言いました。
「いやいやそんなことはない。大きなうちわのような形でしたよ。蝶々みたいな動物ではないかと思います」
「何をねぼけたことを!」三人目の従者が言いました。
「この動物はぶっとい柱のようで、押しても引いてもびくともしない立派な動物だったじゃないか」
 それを聞いていた四人目の従者が小さな声で言いました。
「これは困りました。実は私が確かめたのは細い紐のようなもので、それがぴゅんぴゅんと跳ねていたので、これは小さなムチのような動物かと思っていたのですが、みんなの話を聞いていてそれが本当だったのか、今では全く自信がなくなってしまいました」
 さて、読者の皆さんには従者が確かめてきた「謎の動物」の正体はお分かりでしょうか。
 そう、このお話を知っている人はすぐ分かるでしょう。初めて聞いた人はちょっと考えるかもしれません。でも、ちょっと考えれば分かると思います。
 正解は「象」です。
 なぁ〜んだ、と思うかもしれませんが、私たちは実際に象を目にしているからその全体像を思い浮かべることができるのです。
 もし、盲目の国の人々と同じように象の部分部分しか知ることができなければ、なかなか「象を知ること」は難しいことなのではないでしょうか。
 音楽の理論を知る場合にも同じことが言えます。
「これが音楽だ!」といっぺんに全部を説明してしまうことができるなら、それなりに理解できるかもしれません。しかし、音楽の全体像を一度にすべて語ることはできません。
 ゆっくりと、部分部分を一つずつ語ることになります。
 だから、その話を聞く人にとって、詳しく「象の姿」が分かり難いように、音楽が一体どういうものなのかが、かえって分からなくなってしまうこともあるのです。
 この講座ではそうならないようにしたいと思います。そのために、学術的に正確でなくても「おおまか」な意味が分かれば良いという態度で話を進めていく予定です。
 さて、そこで問題!
 音楽とは何か?
 音を素材とする芸術である。と言い切ってしまえばそれで終わりですが、すると、次に「では芸術とは何か?」と言う質問が出てきそうです。一口で言うなら、芸術とは想像力を使った世界認識であると言えます。
 この問題は意味論的に述べると、どんどん深みにはまってしまい、いくら言葉を並べても言い尽くせないことになってしまいます。
 で、ここはあまり深く考えずに、
「音楽とは音を使って遊ぶことだ」くらいに考えることにしておきましょう。
 思わず耳を傾けたくなる美しい音が聴こえたら、そこに「音楽」があるのです。
 心がウキウキするようなリズムの曲が聴こえたら、そこに「音楽」があるのです。
 悲しいときに、流行歌を聴いてどっぷりその感情に浸るとき、そこには「音楽」があるのです。
 遊んでいるときに、自分で意識せずに意味のないメロディを口ずさんでいるとき、そこには「音楽」があるのです。
 とはいったものの、それでは「何でも」音楽になってしまいますので、一応、節度を保って『音を主体とする遊び』の中でも『コンサート会場やオーディオで聴くようなもの』をここで扱う音楽の範囲としましょう。
 勿論、自分の部屋で奏でるギターの響きもここで扱う「音楽」の範囲に入ります。
『表現』として、人の意志の入ったものをここでは音楽とします。
 メチャクチャにギターをかき鳴らしたり、意味もなくピアノの鍵盤を叩いて、
「あっ!面白い響きだ!」
 と自分一人が勝手に面白がることも音の遊びと言えますし、広い意味では音楽ですが、ここではそれを音楽として扱わないことにします。
 ここで扱う「音楽の範囲」は(厳密に言えば多少の違いはありますが)何度も再現が可能なもの(=形のしっかりしたもの)と限定します。
 だから・・・・えっ!もう時間ですか?では、その「音楽の素(味の素ではない)」となる『音』についてのお話は、次回に・・・・。



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