ジャスティメソード

近代ギターの歴史 : 楽器の改良と演奏技術の発展の関係
 
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 ギターは長い歴史を持つ楽器です。 古くは古代ヒッタイト文明からその歴史をたどることもできるといわれますが、現代につながる歴史は6弦をもつ8の字型のボディの楽器として確立してからと考えられます。
 ここでは、学術的な意味での歴史というよりも「一般教養」としてのギターの歴史を知ることがテーマですので、少々大雑把おおざっぱに考えますと、ギターが楽器として一応の完成をみたのは Antonio de Torres jurado アントニオ・デ・トーレス・フラード(1819-1892)の作品を持ってであると言えます。
 それまで、ギターという楽器は5弦であったり、または復弦であったりといろいろな試みがなされ、形も、8の字型だけでなく、洋梨型の物などもありました。
 トーレスの出現がギター製作の技術に一つの基準を生み出したのです。 その基準とは、『(1)扇型力木配列法を発展させた。(2)弦長を65センチに定めた。(3)指板の広さを最小5センチに定めた。(4)ボディのサイズを大型にした。』ということで、これ以降のギター製作家はほとんどトーレスの確立したスタイルにそってギターを製作しています。
 こうした素晴らしいギターの誕生と同時期に、演奏の分野でも優れたギタリストが歴史に登場します。 その名手こそ Francisco Tarrega Eixea フランシスコ・タルレガ・エイクセア(1852-1909)です。 「アルハンブラ宮殿の思い出」という不朽の名曲の作曲者であるタルレガは、演奏者として、また、教授としても大きな足跡を残しています。 そのなかでも最大の功績はギターという楽器の持つ多彩な表現力を生かす「作曲・編曲法」を確立したということです。
 例えば、①弦の開放弦の音と②弦の5フレットの音、そして③弦の9フレットの音は、「音の高さ」としてはすべて同じ「ミ」の音です。 しかし、音質はずいぶん違うものになります。 こうした「ポジションの違う音」を使うことによりギターの表現力は大幅に高まります。 タルレガは、こうした「響きの相違」を非常に効果的に用いる「音の構成法」を確立したのです。 その「書法」は、タルレガの高弟である Miguel Liobet ミゲル・リョベート(1878-1938)に引き継がれ、それ以降のギターの作曲家・編曲家に大きな影響を与えています。
 そして、19世紀の末からギターの素晴らしさが再認識され始めます。
 しかし、それだけでは18世紀の末から19世紀初頭に花咲いた黄金期のようにはギターは発展しません。 確かに美しい響きは誕生したのですが、この段階ではまだまだ音量も小さく多くの人々の心を捉えるにはいたらなかったのです。 ギターがその真価を発揮するにはもう一世代の時間が必要だったのです。

Fernado Sors
(1778-1839)
フェルナンド・ソル
Maulo Giuliani
(1781-1829)
マウロ・ジュリアーニ
前時代の巨匠

 20世紀の前半に Andres Segovia アンドレス・セゴビア(1898-1987)という天才的演奏家が登場します。 セゴビアは、タルレガの確立した書法を使ってレパートリーを広げ、トーレスのモデルよりも更に一回り大型のギターを開発し、また、奏法面でもよりパワーアップし、一般の音楽ファンにもギターの美しい音楽を広めました。
 セゴビアの業績の素晴らしさは、更にその後にもあります。 1947年にアメリカのエンジニアである Albert Augustine アルベート・オーガスチン がナイロン弦を開発すると、早速それをテストし、これまでのガット弦よりも可能性が高いとみなすと全面的にナイロン弦の使用を始めました。 この時、既にセゴビアは世界的なギタリストでありました。 しかし、名声に満足して留まることなく、常に新しい可能性を追求してゆく姿勢がセゴビアにはありました。 こうしたパイオニア精神こそセゴビアの素晴らしい資質なのでしょう。
 ナイロン弦の使用が始まると再び楽器としてのギターの性能が飛躍的にアップし始めます。 1950年以前のギターとそれ以後のギターでは、音量、表現力共に格段の違いが表れます。 セゴビアもそれまで使っていた名器であるハウザーから、ラミレスに使用ギターを持ち替えます。 弦長もこれまでの650ミリから664ミリと長くなり、より余韻の伸びる楽器へと改良されました。
 それと同時に、再び演奏テクニックも改良し、更にダイナミックな表現が可能になるように発音法の研究をし、1955年〜1960年頃に新しい演奏スタイルを完成させたのです。 その情熱はギターを愛するがゆえのものだったのでしょう。
 長い歴史を経て育ってきた伝統がA.セゴビアによって花開いたのです。
 そして現在。
 1970年代からのバイオテクノロジーの進歩により、ギター用のナイロン弦も飛躍的な品質の向上が果たされ、弦長も弾きやすい640〜650ミリになり、それでいてパワーは更にアップしたギターが作られるようになってきました。 日本の製作家においても黒沢澄雄氏や河野賢氏のギターなどが世界的な評価を受けるようになってきています。 演奏技術と楽器の性能が互いに相乗効果で進歩して、ついに1990年代には、専門的な演奏家でなくても20世紀中庸の演奏家程度のレベルでギターを弾く人が誕生するようになってきたのです。
 セゴビアの功績は偉大でしたが、演奏することに関しては、それはセゴビア個人のものであり、一般ギターファンはただ聴く楽しみしか味わえなかったのでした。
 しかし、現代ではジャスティギターメソードなど、科学的な教育メソードを開発した教育機関の登場によって、その素晴らしい世界が一般人の手に入るようになったのです。


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