ギタリストへの道

24.右手のテクニック(1)
『全て、基本は厳格なものである』
−24−
 左手のテクニックの基本的な役割は、音楽を形作る「音程」をギターのフレット上に作成することです。これは、機能的な技術だといえます。
 勿論、それは基本技術であり、そのうえに押弦圧力を変化させて「トーンプロポーションを作る」と言う音楽表現のための技術がありますが、これは上級技術です。
 その前に右手による音楽表現がなければ、その技術は生きてきません。
 だから、基本的テクニックとしては、音楽表現を行うのは右手の役割であると言えましょう。
 では、右手のテクニックとは何か?
 『ギターの発音テクニック』だと言えます。
 ギターの発音技術については、前にも詳しく述べましたが、それは総論であり、発音原理について考察したのでした。
 だから、右手のテクニックとして
 1.爪の形
 2.右手のフォーム
 3.右指のアクション
 4.パワーの掛け方
 5.各指のバランス
 6.音量。音色の弾き分け
 7.指の運動性のスピードアップ
 等という具体的な方法論にはあまり触れませんでした。
 それよりも、どういう弦振動をするとどういう音が出るという「ギターの立場」に立った視点で発音技術についての考察をすることが重要だったからです。
 こうした考察が何故重要なのか?
 一つの例として野球を考えてみましょう。
投手の投球技術の目的は、打者をアウトにすること(なるべく打たれないようにすることが第一目的ですが、打たせてアウトにする戦法もありますので)です。
 そのために「打ちにくい」球を投げます。その「球」について考えてみましょう(ここで言う球は、物質としてのボールではなく、ボールコントロールのことです)。
 投手の投げる球の中で「カーブ」という球があります。
 このカーブを投げる時の投手のフォームは実に様々です。
 脚の振り上げ方から、腕の動作ボールを握る指の状態等、一つずつの要素を取り出して論じると、とても一律にはいきません。
 「これがカーブの投げ方だ」と一口に言っても、人によりその方法は違います。
 『具体的方法論には個人差がある』ということです。
 個人的な体験を他人に伝えようとしても無理があり、スポーツ新聞にもよくこんな内容の記事が載っています。
 「一流だった投手が現役を引退して、コーチになり、若い投手を指導したら、逆にその投手はだめになってしまった」
 というような記事です。こうした記事を目にすると私は胸が苦しくなります。
 更に、私の哀しみに追い討ちをかけるかのように元一流投手だったコーチの言葉が
 「最近の若い者は根性が足りん。あんなヤワな肩じゃワシの指導について来れん」
 などと載っていたら、もう、怒り心頭、悔しくて涙があふれてしまいます。その人のために未来を棒に振った若者の人生をどう考えているのか!と、詰め寄りたいのを我慢してじっと耐えることになります。
 話は戻って、例えばカーブについて、ボールの立場に立って考えると話は簡単になります。どんな投げ方でも良いから、結果として『ボールに横の回転が与えられる』ようにすれば良いのです。
 そのような状態で、空気中を移動するボールは流体力学でも証明されているように、空気抵抗を微妙に受けることによって、絶妙に曲がる軌道を描いて、飛んで行きます。
 そして、球にそうした物理的条件を与えるために、ボールの握り方、手首の使い方、腕の振り等という投球技術があるということになるのです。
 そうして『原点』がきちんとしていれば、それを実現するための個人的な方法論もある程度定まってきます。  『ボールに横回転を与えるようにして投げる』という大原則は、どんな人でも肯定します。そうした物理的事実をよく観察せずに、球が曲がった、曲がらなかったという結果だけを追った場合は、正しい道から外れてしまうことがあります。
 ギターにしても同じことで「良い音・良くない音」という結果だけを問題にして、「弦をこするように弾く」とか「気合を入れて弾く」とか個人の体験的感覚を言っても、良い結果は出ません。
 しかも、私の体験してきたレッスン、教本に書いてある奏法のほぼ全てはこのような主張がされていました。
 この文章を目にしている皆さんが、そういうギタリストの影響を受けている可能性があります。
 だから(現在の日本の実情を考えて)面倒ですが、間違いのない事実から発音の技術についての考察を始めたわけです。
 そうした前提を踏まえて、では具体的にはどうすれば良いのかということになります。
 勿論、人により、指の筋力、運動神経、指の長さ、爪の形等といった条件の個人差がありますので
「これが正しい右手の技術である」
 と、一つの形を示すことはできません。先に述べた原理に則った中で、個人の一番楽な方法を探すのが理想的な方法です。
 しかし、極端に考え過ぎると、一般的なテクニックというものはありえなくなってしまいます。が、人間が人間である限り、そしてギターも同じような形をしているのなら、原則的には共通した具体的方法があると考えられます。
 そして、その第一歩が『爪の形』です。演奏者とギターを結び付けている唯一のものは『爪』です。演奏者が何をどう感じようと、筋肉をどう制御しようと最後は『爪が、爪先のみがその情報を弦に伝え、その弦の振動がギターを響かせる』のです。
 ギターを弾く者にとっては、先ず爪の形を整えることが第一優先の技術です。その技術が安定することによって、初めて次のステップに進むことができるのです。
 これを不明瞭にしてしまうと、その先の全ての技術は砂上の楼閣となってしまいます。


<< 戻る | 「ギタリストへの道」表紙へ | 次へ >>

▲PAGE TOP

[ライブラリーTOPへ]

      

© 2004 Justy Guitar Association