ギタリストへの道

21.左手のテクニック(3) −21−
 左手の基本的なフォームに関しては理解されたことと思います。
 だからといって、実際にギターを弾いてみて、自分の理想とするフォームが作れるかというと、実はそうならないのが現実です。
 先にも述べましたが、理想的なフォームを作るためには、そのための筋力がなければなりません。だから、その「理想形」を目指して筋力アップのトレーニングを行う必要があるのです。
 その場合、若い男性などは有利な条件を備えている場合があります。つまり、最初から左指の押弦のために必要な筋力を既に持っていることがあるのです。後は、その力の合理的な使い方をマスターすれば良いだけですので、わりと楽に良いフォームを身に付けることができます。
 しかし、それ以外の大部分の人は、まず、基礎筋力を身に付けることが必要です。
 そのための練習は、本科の後半から開始します。それがスラーの練習なのです。
 スラーの練習を行うことによって、基礎筋力を身に付け、その力の合理的な使い方をマスターします。
 この場合のスラーの練習は、1指を少し寝かせ気味にして(左手全体としては斜めのフォーム)行うと、2・3・4指の動きがスムーズになります。
 手・指の筋肉構造を分析すればすぐに分かることですが、人間の手の構造は親指・人差し指が独立していて、それに対して2・3・4指があるというようになっています。
 言い替えれば「親指・人差し指・それ以外の指」という3極構造でできていると言えましょう。だから、1指を2・3・4指と区別してフォームを作るのです。逆に言えば2・3・4指の基本フォームは3本とも同じようにすると楽に動くことになるのです。
 だからこそ、1指を一つの基準として2・3・4指が(大きく考えると同形フォームの中で)独立して動くようなアクションの練習をすると良いのです。
 それが本科後半で行う「スラーの基礎練習」です。
 この練習の大きなテーマは
①合理的なフォームの確立
②筋力をアップさせる
③パワーポイントの感覚をマスターする
 ということにあります。 ①②に関してはこれまでも述べてきたとおりですから、改めて説明はいらないでしょう。問題は③です。
「パワーポイントの感覚」とは何か?
 これは文章で説明するのは難しいテーマです。実際にスラーの練習をしてみて初めてわかってくる感覚なのです。
「こんな感じ」ということで説明すると、例えば水道の蛇口から水が出ている場合を思い浮かべてください。 次に、蛇口をひねって水を止めましょう。が、水の流れはぴたっとは止まりません。 少し水滴がたれることになります。その水滴の量が段々と減ってゆき、最後にポタリ、ポターリとゆっくりとしずくが落下して行きます。
 その状態を想像してみましょう。
 蛇口の先から滴が顔を覗かせ、徐々に大きくなってゆき、ある大きさに成長すると、急にポトリと落下する。そんな状態です。
 水滴には下に向かって落ちようとする力が働いていますが、ある一定の量に達しないと、実際には落ちてきません。
 左指の動作もそれと似ています。弦からある程度離れたところにある指先が、力を入れると同時にすぅっと動くことなく、ある一定量まで力をためておいてから一気に弦を叩くようにするのが上昇スラー(オンスラー)のコツです。
『力をためること』これがポイントです。 下降スラー(オフスラー)の場合も同じように、弦上にある指がいきなり動くことなく、少し指板を掘るような感覚で、勢いをつけて離弦するようにします。
 そうしたことに注意して練習していると、パワーポイント(力の使い方のタイミング)が分かってきます。
 それが分かってくると、スラーの技術だけでなく普通の押弦の際の力の使い方も上手になります。 そうなると、実は左指はそれほど筋力を使わなくてもきちんと押弦することができるようになります(勿論、ある程度の筋力は必要です)。
 しかし、それはできてしまった人にしか分からないことであり、それが分かるまでは、やはり力んで押弦しないとうまく音が出ないものでもあるのです。
 本科で行うスラーの基礎練習は「スラーが上手になるため」に行うのではなく、普通の押弦方法が上達することを目的としているのだと言えます。
 また、もう一つ上のレベルの注意ポイントを述べると「2・3・4指を同じフォーム・アクションに整えるようにする」ために、4指のMP関節をよく持ち上げて固定させるように努力するということが言えます。
 そうすると、いろいろな押弦フォームが楽になります。 写真は「野ばら」「舟歌」「夢路より」に出てくる「D・E7」コードの押弦フォームです。 4指のMP関節が固定されていて、自然なフォームに見えます。

2フレットをセーハして2指で②弦を押弦する「Dコード」フォーム(使わない3・4指も基礎フォームを崩さずにいる)。 「E7」のコードフォーム(1指は斜めのフォームを崩さないで待っている)。2・3・4指がセットになって押弦されている。


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