ギタリストへの道

17.人間工学とギターテクニック(4) −17−
 視点を一つだけに限ってしまうと考えの飛躍的な発展は望めません。
 ギターの技術について考えるにしても、ギター演奏の発展の歴史だけでなく、チェロ、ピアノ、ヴァイオリン、フルート等、種類の違う楽器の歴史を知ることは大変有益です。
 また、いわゆる「発展」の法則を知るために弁証法を学んだり、音楽以外の分野(例えばコンピューターなどの新しい技術・産業の分野)の成長過程を知ることにより、ギターのこれからの発展のあり方を予測することもある程度できるように思います。
 そこから逆に考えて、そのためにはこういう技術的進展が必要である、ということを導き出して自分の進むべき方向性のヒントを得ることもできます。
 20世紀から21世紀にかけての現在の社会は『情報社会』と呼ばれていますが、歴史上かつてないほど大量の情報があふれています。その情報を総合して上手に活用すると(自分のやりたいことにとって)有益な結果を得ることができると思います。
 そうすることによってギター演奏技術の急激な進歩が可能になったわけです。
 ここでは詳しい過程を述べるのは控えて結論を語った方が良いかもしれません。
 前項の「芸術と技術」でも述べましたが、生徒(ユーザー=一般大衆=消費者)にとって必要なことは『効果』であり、『原理』ではないのですから・・・・。
 分かりやすく言い替えるならば、実際に演奏している私(または、ジャスティ奏法でギターを弾いている人)の姿を見て(聴いて)納得すればそれが最大の証明になるだろうということです。
 口先で何を言っても、実際の姿がそうであるという保証はありませんし、逆に実際の現実が正しければその理論は信頼できるということになります。
 理論には必ず証明が必要であり、証明のない理論は単なる「仮説」に過ぎません。
 私の立場はギタリストですからギターのことは詳しく理解していますし、私のやっていること(演奏)の背景(バックボーン)にはすべて理論的根拠があります。
 しかし、日常生活で何気なく利用している電子レンジやステレオ、ビデオ等の器具の理論や具体的内容は理解していません。私にとって必要な事柄はそれらの器具が正しく機能することです。
 そういう意味でこうした製品に対して私は一般消費者であります。つまり、ユーザー、いわゆる一般大衆になるわけです。
 その私に対して、エレクトロニクスの専門家がこれらの電気製品の作動原理を説明してくれてもあまり意味はありません。
 おおよその原理、そして具体的な使用方法を教えてもらえれば十分用は足ります。
 その理論の検証をするのはやはり同じように勉強してきた専門家でなければ難しいことです。
 それよりも現実の使用例(つまり演奏された音楽)を聴いて、それが美しい(楽しい)ものかどうかで判断するのがユーザーの一般的なあり方でしょう。
 というわけで詳しい理論的背景を語ることは差し控えます。
 話は戻ります。
 問題はいかに合理的な身体運動を行ってギターを弾くかということであり、ジャスティ奏法を体系化するにあたって、私はギターの技術とそうした現代の解剖生理・運動生理学との融合を図ってきたということです。
 その結果、本科の基礎理論でも述べていますが、左手のフォームを大きく2種類に分けました。  『斜めのフォーム』と『直角のフォーム』です。
 基本的に単音を押弦する時は斜めのフォームにします。
 ヴァイオリンはほとんど斜めのフォームで押弦することができます。それは弦が4本しかなく、ネックも細いからです。
 しかし、同じような弦楽器でもチェロは斜めのフォームと直角のフォームの両方を使用します。 ネックが太いことと、音程を作るのにより指を広げなければならないからです。
 ギターの場合は6本の弦を押弦する必要がありますから、ヴァイオリンやチェロと比べると、当然、より複雑な動作が要求されることになります。
 指の運動性を考えると斜めのフォームの方が合理的なフォームと言えますが、それだけでは楽譜上の音を押弦することに無理が出てきます。
 つまり、指のことだけを考えるならば斜めのフォームの方が合理的ですが、実際問題として『ギターを弾くため』の技術なのですから、そのためには身体運動の合理性をなるべく失わずに現実に対応する必要があります。それが直角のフォームということです。
 ですから、左手のフォームを作る際には、まず、斜めのフォームを目指すわけです。
 そこで基本を身に付けた後に、応用として直角のフォームの形をマスターしてゆく、それが左手の技術修得の順序ということになります。
 フォームが固まらないうちにいろいろな形の押弦動作をしてしまうと、合理的運動の方法がマスターできなくなります。
 言葉を替えると、つまり、秩序立てて曲の練習をしてゆかないと(初心者の場合は)合理的なフォームや運動性のマスターができないということになります。
 ジャスティの発表会のビデオなどを見てみますと、初歩者から上級者になるにしたがって手・指の形が美しくなってゆくのがよく分かります。
 合理的なフォーム動作を身に付けた人の指の動きは理に適っているので非常に無理なく美しく見えるのです。
 これはギターに関してのことだけでなくあらゆるスポーツにもいえることです。
 見ていて動きが美しくない人の技術というのはやはり無理があります。言い替えれば、「下手」であるということです。
 ジャスティテキストでは、順にレッスンを進めてゆけばそうした美しいフォームを身に付けることができるように曲が配列されています。アレンジもその目的に沿うように成されているのです。こうしたことを順を変えて練習してしまうと『目的』の達成は難しくなります。
 原理は分かっても、どういう順で身体運動の性能を高めてゆくかというテーマについては、まだ完全には確定されていません。
 大体の基準は定まっているのですが、より効率よく上達するためにということで現在もテキスト(学習過程)は少しずつ改善されています。
 先にも述べましたが『理想的なフォーム・アクション』というのは、その理想に向かって、使うべき筋肉・神経機構を訓練していって初めてそのフォーム・アクションがその人にとって理想的な形となるものなのです。
 わかりやすく述べると、進歩の各段階においてマスターすべきフォーム・アクションは変化してゆくということなのです。
 ジャスティメソードでは、その段階を大きく4段階に分けています。
 『基本科』『本科』『専科』『研究科』という4つのグレードがそれです。
 左手のことを例にすると、まず基本科の段階では「フォームがどうのアクションがこうの」などというゆとりはありません。
 それよりも、楽譜を読み、それと対応するギターの音程(フレット)のポジションを知ることが最優先のテーマとなります。
 そうしたことが少し分かってきて多少の余裕ができてから、つまり、本科に入ってからフォームのことがテーマになります。
 ここで「斜めのフォーム」と「直角のフォーム」の基礎をマスターします。
 しかし、まだいわゆる「力」がついていません。基礎練習ではある程度『型』を重視しますが、課題曲を弾く際には多少『型』が崩れてもあまり気にしません。
 ここでは、ちょっと複雑な「音形(=単音ではなく複数の音)」が出てきますから、その場合(まだ指の筋肉ができてない場合)には多少『型』を崩さないと「音」が出ないことがあります。その場合、この段階ではとにかく「音」を出すことを優先します。
 ただし、基礎練習の「和音進行」では左手のフォームも正しくするよう気を付けます。
 本科の課題曲はなるべく左指の同形フォームが使われるように配列されていますから、指がそのパターンに慣れて、知らず知らずのうちに理想的なフォームが作られてゆくことになっています。
 同時に、ギターを弾くうえで重要な骨間筋をはじめ、浅指屈筋、深指屈筋等の指の筋肉も鍛えられてゆきます。
 専科に入る頃には指の動きも柔軟になってきますので、いよいよ合理的なフォーム・アクションのマスターの第一歩であるヴィブラートの練習を始めます。
 本来は曲の求めるトーンプロポーションによって『押弦圧力の変化』にも多くのパターンがあるのですが、ここではそこまでの音楽的な要求はしません。
 右手のレガートアタックと共に美しい音を求めて、左指の押弦圧力を変化させます。
 こうした流れの一つの到達点は研究科にあります。ここで初めてこれまで学んできた技術の総合をするわけです。
 この段階ではすべての技術が理想的でなければなりません。  『基礎技術と応用技術』が一致することになります。
 勿論、それまでに他の様々な事柄も並行して学んで行くことは言うまでもありません。
 これは左手のことのみを述べたのです。


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